練習時間について

練習時間はたくさん確保できるならそれに越した事はありませんが、
社会人の場合、仕事を終えてから毎日何時間も練習するのは酷なことです。
私自身、会社勤めが終わってから毎日練習するのは大変でした。
よく週末まとめて何時間も練習するより、毎日5分でも10分でも継続した方がよい。と言いますが、
それを実践する事自体大変ですよね。
サックスを組み立てたらもう5分10分経ってしまってたりして(笑)

場所の確保もさる事ながら仕事終わりなら疲労もあります。
私自身、社会人のころは毎日1時間の練習時間をキープできた時期もありましたが、実際、
毎日1時間では現状維持が精一杯で、スキルアップの練習には足らなかったと言うのが当時の実感です。
よく『練習時間はどれくらい取ったほうがいいですか?』という質問を受けます。
これはその人により、状況もモチベーションも様々ですから答えにくい質問なのですが、
アマチュアの方でもし時間が許すなら『スッキリするまで』とか『納得するまで』と答えております。
理想を言えば管楽器ですから毎日欠かさず練習できるのがベストです。
でもなかなかそうはいかないのが現実ですよね。
サックスはまず場所の確保が難しいし(当教室では無料レンタルブースがありますが)、
残業もあれば、仕事が終わってもさまざまなお付き合いもあるでしょう。
体調も芳しくない時もあるでしょう。

ですから、可能なときに無理ない程度に少しでも毎日続けることが大事かと思います。
私もサラリーマン時代に練習時間を確保するのは大変でした。
時間が無ければ5分でも10分でも良いので楽器を触りましょう。
音が出せる環境が無ければ音階練習として指をカタカタするだけでも良いです。
曲に合わせて指を動かすだけでも良いです。エアサックスで結構です。

もしまとまった練習時間が取れたら、その内3/4くらいは基礎練習をすることをお勧めします。
つまらないかもしれませんがこれをやらないと上達どころか現状維持も困難です。
悲しいかな人間は放っておくと忘却と退化の道を転げ落ちていきます。
しっかり(詳しくは練習内容についての項で書きますが)基礎練習をして最後の1/4はご褒美で(笑)、
好きな練習をしましょう。曲を吹いても良いですし新たな発展的なテクニックの練習でもいいです。
『今日は良くやった!楽しかった!』と思える状態で終わりましょう。
そうしたら脳内でドーパミンがでて練習が好きになるかもしれません。(笑)
1週間に1回何時間もやるより毎日毎日コツコツと確実にやりましょう。
『習慣づける事』が上達への第一歩です。
では社会人から始めた初心者は永遠に上手くならないのか?ーーーー
実はそんなことはありません。
私が10年以上レッスンをしていくなかで、短い練習時間で確実に上達する方法を考え、
数々の生徒さんに「提案し、ある程度の実績を挙げてきました。
簡潔に言えば『量より質』という事と『断続も力なり』(継続がベストですが)ということです。
以下、『練習内容 』についての項で詳しく述べたいと思います。

練習内容について

前項で練習は『量より質だ』と申し上げました。
私は師匠に『練習内容にマイナス要素があればそんな練習はすればするほど下手になる、
マイナスが確実に加算されるからだ』と教わりました。確かにその通り。
中学生や高校生の部活のように毎日何時間も練習していれば量がモノをいって
いつの日か、ある程度合理的な正しい奏法にたどり着ける『かも』知れませんが、
それで悪い癖が付いてしまう事も多々あります。しかも残念なことに、
一度付いてしまった癖はなかなか修正に時間がかかります。結果遠回りになります。

ですからがむしゃらに練習するよりも『プラスしか積み重ねない』『プラスしか経験させない』
ことが大事です。よく『100回やって100回目にやっとできました!』なんて聞きますが、
それは『99回間違った事を経験させただけ』です。確実に出来るテンポ、音量でやる事や
間違いを犯しにくい条件で正しく練習する事が大事です。
例えば『指が速くまわらない』なら、目標のテンポで何度も挑戦しないで、確実にゆっくりの
テンポからやる。しかもなんとなくさらっとやるのではなく、1音1音を
@目で見てA耳で聞いてB指先の感覚も確認してC頭の中で歌いながらやる。
これらは1セットです。
そのうち正しく出来るようになって、余裕が出てきたら少しずつテンポを速くする。
『なんとか速く出来る』はダメです。『必死にならないと出来ない』と言う経験はさせない。
飽きるくらい『余裕』でできる経験のみ。そしたら今度は1音1音でなく『フレーズを塊』で
捕らえます。その塊を『アタマの中で歌う』だけで指が正しく動くようになることです。
1音1音の指令ではなく、まるで4文字熟語をイメージしたら全角スラスラ書けるように。
『魑魅魍魎』とか練習しないと絶対書けないですよね(笑)。

それから例えば、フラジオやオーヴァートーンの練習の際に噛んで吹いてしまう人の場合に
どうしてもその音を出したいという気持ちから噛んでも音が出れば練習して出来た気に
なってしまうことがある。
そもそもラジオやオーヴァートーンが出せるということはその為の舌の位置、形や喉の開き
を変化させ、息の速度と角度をコントロールすること体得することであるから、
噛んでしまうとティップオープニングを狭くして息の速度や角度を変えてしまう。
つまり、理解すべき事を避けて別の方法でやってしまうことになる。
いつまで経っても舌や喉のコントロールが身につかないのです。
そればかりか舌と喉に無頓着になる癖が付き、結果マイナスになります。
これらはちょっとした例ですがこのような練習の落とし穴はたくさんあるのです。

コンセプトを持つ事

練習練習は何となくしてはいけません。その目的観や意味を明確にしてやるべきです。
一言に練習と言っても様々な側面、要素があります。例えば

@基本奏法・・・呼吸、運指、タンギング、シラブル(母音)などのおもにフィジカルな土台となるもの。

A発展的奏法…ハーフタンギング、ベンドなどのピッチコントロール、フラジオ、サブトーンなどのニュアンス。

B基本語彙の習得…スケールやアルペジオなどの反復練習。

C発展的語彙の習得・・・U-7X7フレーズなどのリックの習得や新しいアプローチへの挑戦。

Dこの他、練習とは言えないかも知れないが、ソロのトランスクライブ(コピー)やアナライズなどの研鑽も大事です。

これらを1時間なら1時間で上手く時間配分してバランスよくこなしていければ効果が上がるし、楽しくなります。
社会人なら誰でも今日1日の仕事をうまく割り振って片付ける能力はあるはずでしょうから、このようなメニューを たんたんとこなせばよいのです。
よくありがちなのが、楽器を出して適当に好きな曲やフレーズを吹いてすっきりして終わり!みたいなパターン。
これは練習でなくマスター○イションです。やっちゃダメとは言えないが・・・です。

セッションなどで『あいつのプレイはマスター○イションみたいだなぁ』と言われない為にも
有意義な練習をすべきです。
練習に客観的視野がなければ普段のプレイにも客観性が欠けてしまう。
音楽表現とは表現すべき『確固たる主観』を『冷静な客観』によって認識し、適切に伝えることに他ならないのです。
伝え方が下手だと伝わらない。@〜Cは伝え方、Dは伝える事を磨く作業と言えます。

クリエイティヴであること

練習の要素の中に何か1つ以上クリエイティヴな事を積極的に取り入れてみるのも
楽しみながら練習するコツと言えるかもしれません。
ルーティーンも大事ですが、音楽はクリエイティヴな行為なので常にワクワクするような
感覚で練習するのもよいでしょう。
例えばロングトーンですが、通常皆さんは『中音のド』あたりから上下にメトロノームを使用して
8拍吹いて4拍休みなどのパターンでやっているかもしれません。
まっすぐに音をキープするのがやっとと言う人はこれでも良いですが、
ある程度ロングトーンは問題なく出来るという人がルーティーンやウォーミングアップとして
やるならもう少し工夫をしてもよいでしょう。
例えばブルースのカラオケを使用し、初めのワンコーラスはコードのルート音のみ
ロングトーンしていく、2コーラス目は3rd、次は5th、次は7th、9thといった具合にやっていく。
そのそれぞれの音とカラオケの音がどうサウンドしているかを認識すましょう。
これはメジャー3rdとマイナー3rdでの違いやメジャー7thと普通の7thの違いを
はっきり知覚できるのでお勧めです。このときに『この響きは悲しい』とか『不安だ』とか
『自信に満ちている』など脳みそに『名前をつけて保存』しておく事をお勧めします。
なぜなら、実際にコードの構成音をプレイしようとした時に『何の音を吹くべきか?』と
決定しなければならない瞬間に判断基準となるからです。上に記した『叙情的』な名前で無くても
『朝もや』『雲間から差す温かい光』とか『叙景的』な名前をつけてもよい。
とにかくすぐに実践に使える形で脳に保存すべきです。
また同様にカラオケを使用しても敢えて吹く音のチョイスを決めずに今吹いている音から次に
何の音を吹きたいか『自分の感性に任せる』というルールも面白いかもしれない。
次の音へは上がるか下がるか同じかの3択です。コードの構成音じゃなくてもいい。
完全に感性に任せる。失敗しても破綻してもいいのです。練習ですから。
そこから発見したり、学ぶものは大きいのです。


効果的、合理的であること

ヤミクモに練習していてもそれに費やした時間だけの効果が得られない事もあります。
つまり、練習内容にマイナス要素がある場合です。マイナスをいくら積み重ねても上達とは違う方向へ言ってしまうだけです。所謂、『悪い癖』がついてしまうという状況です。

私が教えているア・ミューズで実際に会った事ですが、
ある会員さんが入会しました。
その方は某大手音楽教室で音大出身の講師に何年もレッスンを受けておりました。
ある日その会員さんは私に『フラジオが出したい』と仰った。その会員さんが教わっていた
音大出身の講師の方はフラジオが上手く出せなかったということでした。
その講師はフラジオは出せてもその会員さんがイメージする、サンボーンやブレッカーの『プギョーーーー!』というギターのチョーキングのような『アレ』とはかけ離れた繊細でお上品な『ぴろ〜〜〜。』というフラジオであったようです。
で、その会員さんは不運にもその講師に『通常より少しアムブシュアを噛み気味にすると出ますよ』と教わったらしいのです。
ジャズ系プレイヤーからすると信じられない話です。しかしその会員さんはそんな事は知る由も無く、その音大出身の講師を信じ、ひたすら噛みまくってフラジオを出そうと練習を積み重ねてきました。

挙句の果てに『下唇と歯の隙間に紙を挟んで吹くと痛くないですよ』と余計な事(某有名クラシック奏者がそうやって吹いているのを私は見た事があるが)まで教わり、がっちり噛み癖がついてしまっていたのでした。

リードにはその音域により振動を司る部位があります。
リードを噛んでしまうと全体の振動を抑えてしまうばかりかフラジオに必要な倍音の成分をカットしてしまう可能性もあります。

確かに高音域は息のエネルギーをスピードに変換して吹かなければ反応しません。
つまり軌道を狭くして(ホースの先を摘むように)息のスピードを上げるのですが、マウスピースを噛む事でティップオープニングを無理やり狭めてスピードを稼ぐ癖がついてしまう。これでは倍音をカットし、ヒステリックな音になってしまう。そういう音を出したいなら構わないのですが、これは本来のオーバートーンの延長としてのフラジオの出し方とは違ってしまうのです。あくまで、金管楽器のように口内に於いて舌の位置を上げる事で舌と口蓋(バッフル)の間を狭める事で息のスピードを上げ、リード自体の振動は止めるべきではないと思います。
では噛み癖を直すにはどうしたらいいか?
それには『なぜ噛んでしまうか?』を考えなければならない。―なぜ噛むか?―、『噛まないようにしよう』と心がけるだけで治るなら前述の某有名クラシック奏者も紙など挟まないで済むでしょう。噛みたくなるからではない。『歯』があるから『噛む』のである。要は歯を無くせばいい。
いや、抜歯しろという事ではないですよ(笑)。
歯を使わなければいいのです。つまりアムブシュアを作る時に上の歯をマウスピースには付けずに『浮かせて』唇の筋肉のみで咥えて吹いてみる。(※ダブルリップとは違う)
そうすると口内の空気の密度と舌の形が正しくないと音は出ない。
噛む事で自分の好きなところまでティップオープニングを狭めるという奏法で吹いていた人はこの奏法だと音が出ないかもしれません。
しかし、噛む事で意識していなかった口内気圧や容積によるシラブルの設定などを身につけることが出来るのです。
このようにマイナスの要素(この場合は噛む可能性)を一切排除して『効果的』『合理的』に練習は行なうべきである。

楽しむこと

昨今『脳トレ』という言葉を良く聞きますが今脳科学と言うものが注目されています。
楽器の演奏も年配者が『ボケ防止』ではなく、
若い世代が『脳トレ』として始める方も増えてきました。


今まで「脳細胞だけは生まれたときから減り続け、決して増えることはない」と言われてきましたが
近年、エリクソンというアメリカの研究者が海馬においては神経細胞が成人してからも増えるという
衝撃的な発表をしました。
その後のいろいろな研究によると常に刺激のある事をしたり、学んだりする事で脳は活性化するという事です。

私ごとですが2011年に脳卒中になり、記憶障害、言語障害、左半身麻痺を患いました。
現在、言語障害はほぼ治り、(まだ若干カミカミの時もありますが)記憶もだいぶ戻っては来ました。
ただ左手の麻痺と運動記憶の障害がまだ残っています。
これは脳に記憶しているフレーズは歌えるが、指が動かないという
ジャズプレイヤーとしては致命的な障害です(笑)。所謂『手癖』が一切使えなくなりました。
ただ、記憶を司る『海馬』の細胞は前述の研究によれば再生、増殖するらしいので希望を持ちつつ、
リハビリを『楽しみたい』と思っています。
以前当たり前に出来た事が全く出来なくなっているという事実は普通の練習よりツライです(笑)

人間はつらい経験と言うものは忘れるように出来ているらしい(笑)ので練習は楽しくやりましょう。
楽しむ事でストレスの発散にもなりますし、新たなアイデアなども浮かんできます。
また、練習したいという気持ちも強くなりますよね。しなければいけないでなく、
したいということが大事だと思います。
趣味ですから。ゲームをクリアするようにやりましょう!

浜松医科大学名誉教授の高田明和氏によれば脳細胞の再生、活性化に『一番いいのは
『楽器をやること』だそうです!
皆さんも楽器の練習は楽しく、脳トレしながら上手くなりましょう!

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